私の「イロハ」12.「ヲ」ヲタク

そもそも「ヲ」あるいは「を」という言葉は、現代の国語では助詞としてしか使用しないことになっているらしいが、昔は名詞にも使われていて「お」の音よりも幾分違っていて「wo」のようなより口を尖らせて発音した時代があったらしい。時には明確な違いが無く紛らわしくて朝廷や文人があれこれ意見を出したこともあったとか。国語的に認めていない「ヲ」や「を」を現在人の名前やこの「ヲタク」のように使われているのを見ることがある。何か訳があるのかもしれない。他にも「ゑ」はペンテルの「ゑのぐ」などと書かれていたり「ゐ」は「ウィ」と発音したらしい。敷居(しきゐ)、芝居(しばゐ)、鳥居(とりゐ)など「居る」は「ウィル」と言っていたのということなのか。今は使われない言葉だけど、私としては残っていて欲しかった。

「ヲタク」という言葉を耳にしたのは随分昔のような気がする。若者を中心にした社会現象のように思うけど、もちろん、昔から「お宅」という言葉はあったし普通に使われていたが、宅を構えているでもない若者の間で使われ出したという「ヲタク」。「ウィキペディアによると、ヲタクとは、1970年代に日本で誕生した呼称でありポップカルチャーの愛好者を指す。とある。元来はアニメ・ゲーム・漫画などの、なかでも嗜好性の強い趣味や玩具の愛好者の一部が二人称として「お宅」と呼び合っていたことを揶揄する意味から派生した術語で、バブル景気期に一般的に知られはじめたらしい。

 へーそうなんだと今改めて私は思うが。当時は「お宅」にこもって、すなわち閉じこもって何かに偏執的に執着している若者の姿を言っていると思っていた。傾向として、漫画やアニメ愛好家や、話される内容が特徴があってマニアックであったり、時には女生徒どうしで一人称「僕は…」と言っていたり、5、6人の人たちが皆別々のことを話していて不思議に意思疎通ができていたり、傍目に見ている私には興味深い光景ではあった。もちろん、「ヲタク」の明確な定義もなく、私が見ていた光景も私が勝手に思っていた分析で、言葉の始まりが「貴方」というところ「お宅」と呼び合った日本語の人称の持つ社会性、関係性に照らしてみれば、身近にいた生徒たち若者それぞれの独特の距離感が、その時代新しく生まれたのかもしれない。会話において欧米のように「私はね…」とか「あなたは…」のように言うと、日本語の文化ではとても強く受け止められるので、それぞれの関係性の中で工夫され、文脈次第では省略され、立場や主張内容で一人称も二人称も多様に使われて、発せられる意味内容に自分の身分や立ち位置など関係性を付加する、ある意味高等技術が編み出されたのだろう。あーめんどくさ、と思うが、高校生の若者でも新たな二人称を開発したのだ。

 使われる言葉に子供の頃戸惑ったよく似た言葉「らしく」とか「しらける」などがある。

子供の時、「男らしくしなさい」とか「中学生らしくない」など言われた時はほんとに悩んだし、昔からあった言葉だろうが、教師をし始めた時代「しらけ」という言葉が流行って、私が熱を込めて語っている時、生徒に「しら〜」とした反応で返された時、ゼネレーションギャップとして「シラケ」の洗礼を受けた記憶がある。もちろん、こちらに空気を読む能力がまだ無かったこともあるが、戦後のホットな時代(60年代から70年代)が落ち着いて、何事もあまり大袈裟に話すと馬鹿にされる時代になっていたのは確かだ。