私の「イロハ」13.「ワ」ワダツミ

「海神」ワダツミ、古代の響を感じる言葉。学生の頃、明治時代の画家、二十八歳で世を去った青木繁の作品「わだつみのいろこの宮」の絵を画集で見たとき、この不思議な題名、絵の魅力とは別に、意味もわからず、音の響きに魅せられた記憶が蘇る。

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この絵の物語は『古事記』21話に記されている「海幸山幸・綿津見の宮」の話。山幸彦が海幸彦に借りた釣り針をなくしてしまい、兄の海幸彦のその物を返せという意固地さに、途方に暮れていると、潮路の神の計らいで海の底にある海神の国に行くことになり、そこで海神の娘、豊玉姫に出会い、彼女は一目惚れで山幸彦と結ばれる。そしてそこで3年暮らす。

 青木繁の絵は、潮路の神の予言通り、山幸彦が宮殿の前の桂の木の上で待っているところに侍女と豊玉姫が現れる情景である。立ち上っていく泡が辛うじて海の底とわかるが、そこにカツラの木があるのも不思議。そして水瓶の水を飲まないで玉を瓶の中に吐き出した。その玉が後々絆の証になるのだが。

 物語の続きは、海神は配下のワニ達を集めて山幸彦が失くした海幸彦の釣り針を見つけ出し、故郷に豊玉姫を連れて帰ってくる。その豊玉姫は身籠もっていて、出産の場面をを見ないように言われたにもかかわらず、山幸彦が覗いてみると、何とワニがのたうちまわっている。見られた豊玉姫は恥ずかしさのあまり子供を残して海神の国に帰ってしまう。というおはなし。

 古代神話(記紀)でワニはしばしば出てくる。例えば、ワニを騙して丸裸にされた因幡の白兎、事代主命が「ワニ」に化身して大阪三嶋の溝杭姫(亦の名、玉櫛姫)の許に通って、そして児、姫蹈鞴五十鈴姫命を生んだ、など。

 青木繁の絵に戻ると、海に関する絵、代表的な「海の幸」、あるいは古代神話に関する「オオナムチノミコト」(丸裸にされたウサギを助けてやった大国主命)の復活の絵。

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この絵はオオナムチ(大国主神)の受難というおはなし。兄弟の神々の嫉妬で何度も死ぬがいろんな女性に助けられる。この時の女性のモデルがまた「海の幸」のモデルは青木繁の恋人福田たねだとか。

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因みに

福田 たね(ふくだ たね、1885年(明治18年)1月25日 - 1968年(昭和43年)5月17日)は、画家でもあり、青木繁らとスケッチ旅行中に青木繁の子を懐妊 。音楽家・福田蘭童の母。 元ハナ肇とクレージーキャッツ石橋エータローの祖母。しかし2年後、青木繁と離別。

 

 我が国、日本はかつて農業国であると同時に海洋国でもあった。古代人は大方あちこちから何世紀にもわたって波状的に海を渡ってこの列島にやって来たので、それぞれの集団は海にまつわる伝承なり物語を持っていると思う。場合によってはただこの列島を通過しただけで南北アメリカ大陸に居を構えた部族もいたのだろうと思う。

 そんな中、ワニの話が幾つもあるのが当然かもしれない。

出雲国風土記では意宇郡で語臣猪麻呂の娘が「和爾」と遭遇して食べられ、猪麻呂が海の神に祈って復讐を果たした説話、仁多郡で「和爾」が玉日女命を慕って川を遡上したことにちなんで恋山と名付けられた説話が収録され、肥前国風土記では海の神である「鰐魚」が多くの小魚を従えて川を遡上し世田姫のもとへ通う説話が収録されている。

しかし、日本には鰐はいなかったので古来からそれらしい動物、龍(想像の動物だが)やサメなどを想定して諸説入り乱れている。