私の「イロハ」14.「カ」悲しみ 哀しみ 

 我々人間は、日々の生活の中で悲しい体験や喜びの感情をまるで打ち寄せる波のように受け続けている。個別の体験の場合、例えば「別れ」や「喪失」のような場合もあれば、社会全体の災禍「まさに2020年、今の現状」によるものもある。あるいは人間存在の通奏低音のような悲哀感もある。

 葬儀の場でBGMとして時々耳にする音楽、サムエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」という曲がある。私はそのことに違和感を持つけれど、確かに、死者を送るその場の空気(音の流れ)となり参列者にまとわりついてくる。

https://youtu.be/s9xrUotL7wc

 しかし、同じ曲なのだが、ストコフスキーの演奏は多分、葬儀・葬送にはむかないと思う。あえて言えば、この演奏は「空気」ではなく生きた「魂の叫び」が実態として激しく我々に聴かせる。いわゆるBGMではないからだと思う。

https://youtu.be/HRZIc_Q0t8c

 古来から、悲劇、喜劇は物語として、音楽としてまた絵画や彫刻などのモティーフとして数々の作品がある。

 

悲しみのレアリズムと言えそうなチャイコフスキー交響曲「悲愴」。なんでこんなに哀しいのか、分からないけど、とにかく悲しみが渦を巻いて心を鷲掴みにして揺り動かす。

https://youtu.be/BVkWCHgOxw8

一方、人間存在そのものが「悲しみ」であるようなベートーベンのピアノソナタ「ハンマークラヴィーア」の第三楽章

https://youtu.be/6qzDUOiyYz0

舞踏のリズムでありながら哀しい旋律、シベリウスの「悲しいワルツ」

https://youtu.be/PoI7iCFZXXA

美しい音楽を聴いて悲しいのは何故だろう。そして何故か、時々意識的にわざわざそれを求める。そしてそこに浸り、時には涙する。こう言うの、心理学的に何とか言ったなあ?

… 思い出した!「カタルシス」(浄化)だ。「映画や演劇で悲しいシーンを見て泣けてくるのは、実は自分に類似した体験や記憶と重ねているからなので、こうした人ほど、涙のカタルシス効果が高く、泣くことがストレス解消になる」ことらしい。人類は古くからストレス解消法を編み出していたということか。古代ギリシャやローマで立派な劇場が数多く作られ、悲劇を観て涙を流し、喜劇で腹を抱えて笑っていたのかと想像する。

 悲しみは、昨日の友達の振る舞いであったかもしれないし、一月前の何某かの手違いで会えるはずの人に会えなかったとか、2年前の古くからの友人の急な他界の際の虚脱感であったり、20年前の切れてしまった友情だとか、諸々の体験によってもたらされた数多くの「悲しみ」が消えることなく心のどこかに蓄積・堆積しているのだろう。

 あるいは根強くある社会的な理不尽さ、民族差別や支配・被支配を思うと、悲しみよりも怒りの感情の方が強い。そのような社会事象をモティーフにした芸術表現は、我が国でも、ひと頃「社会派」とカテゴライズされながらもエネルギッシュに存在していた。

 今日、テレビの番組(報道特集)でホワイトハウスのフェンスに貼られてた「黒人差別」の抗議ポスターや「ブラック・ライズ・マター」の巨大文字をニューヨークの大通りに書いている映像があった。黒人というだけで白人の警官に理不尽に殺される、その現実を見て、もはや悲しみの感情ではない。このやるせない怒りをどうすればいいのだろうか。

 一方、権力に近ければ何をしても許される国に対する怒り。

 数々の目の前に日々繰り広げられる現在の社会にいおいて、芸術表現はどんな意味があるのだろうかと思う。f:id:AchiM:20201024212334j:image

我が国では、国も国民もこのような抗議表現はおよそ無理だろうなと思うこと、そのことが悲しい。

大阪都構想」に街頭で山本太郎が反対演説をすれば警察が来て排除する。その後維新の街宣車で「大阪都構想」の街頭演説をやる。今や権力にたてつけば排除されるのが当たり前になってきた。そんな時代である。

 年齢のせいか映画や演劇、テレビドラマなどを観る機会が本当に減ったと思う。むしろ「観たくない」と避けているとも言える。

 彫刻の世界で印象的なのは、ミケランジェロの「ピエタ」。ミケランジェロは生涯この「ピエタ」のモティーフで4作品を作っている。

ピエタ」(哀れみ)は処刑され十字架から降ろされたキリストをその母マリアが悲しみの中で抱き上げる場面、多くの画家や彫刻家がモティーフにしてきた。キリスト教の受難の象徴的な話ではあるが、ミケランジェロはこの主題の中に何を求めていたのか?『サン・ピエトロのピエタ』以後、全て未完で、晩年最後まで追求していたものとは?

f:id:AchiM:20201023231451j:image『サン・ピエトロのピエタ

f:id:AchiM:20201023230453j:imageフィレンツェピエタ

f:id:AchiM:20201023230508j:imageロンダニーニのピエタ